業務の共有化とは、組織内での情報やタスクの共有を促進する取り組みのこと。これは、部門や個人の垣根を超えて情報を共有し、効率的なコラボレーションや意思決定を可能にします。
共有化は、内部コミュニケーションを円滑にし、情報の透明性を高めることで、生産性や品質の向上につながります。
さらに、組織全体での知識やベストプラクティスの共有によって、継続的な改善と革新が促進されます。これにより、組織は競争力を強化し、持続可能な成長を実現することが可能となります。
仕事は属人化から共有化へ!
本記事はできない社員をできる社員にするという切り口で「業務を標準化する」方法を紹介します。
働き方改革では、休暇取得率の向上や残業の削減が挙げられています。しかし、働き方改革の本質は、仕事のやり方、進め方の改革です。
国際化する社会で、成長するためには、戦後に作られてきた古い成功パターンから脱却する必要があると考えられています。
そのひとつが、個人の能力に頼りすぎる属人的な仕事の進め方を標準化し、共有することです。社員が休暇を取った際に、生産性を維持するには、属人的な進め方では、うまくまわるとは限りません。
「特定の社員にどうしても負荷がかかる」と悩んでいる経営者や管理職の方は、ぜひ参考にしてください。
できる社員の仕事を因数分解する
「できる社員の仕事を因数分解する」とは、その社員が持つ能力やスキル、経験を細かく分析し、それぞれの要素や要因に分解して理解すること。
これは、その社員がどのような業務を遂行する際にどのような要素が重要であり、それぞれの要素に対してどのようなスキルや知識が必要であるかを明確にすることを意味します。
因数分解することによって、その社員がより効果的に業務を遂行するための強みや改善の余地を特定し、それに基づいて適切なトレーニングや支援を提供することができます。
また、その社員の能力を最大限に活用し、組織全体の業績向上に貢献することが可能となります。
項目 | 説明 |
---|---|
スキル | 社員が持つ特定の能力や技術。例えば、プログラミング、コミュニケーション、リーダーシップなど。 |
経験 | 社員が過去にどのようなプロジェクトや業務に携わり、どれだけの経験を積んできたか。 |
知識 | 社員が持つ特定の分野や業界に関する知識。例えば、法律、マーケティング、製品開発など。 |
モチベーション | 社員が業務に対して持つ意欲や熱意。 |
コミュニケーション | 社員が他のチームメンバーや関係者と円滑にコミュニケーションを取る能力。 |
問題解決能力 | 社員が問題を発見し、分析し、効果的な解決策を見つける能力。 |
能力の個人差が業務の属人化を生む
業務が属人化する原因のひとつが、社員の能力の個人差です。いわゆるデキる社員は、知識やスキルが高いため、仕事を分担化できない状況が起き、業務が属人化します。
それを解消するには、デキる社員の仕事の進め方・取り組み方を因数分解し、仕事ができる理由を突き止めて、そのナレッジを他の社員で共有します。
「ノウハウを教えたくない」と反発されたら?
できる社員というのは、ほとんど場合、すべての工程を一人で担当しています。営業担当者なら、新規顧客の発掘からクロージングまで、すべてを自分の力で行いたいと考えています。そして、それだけの力があるから、会社から評価されていると考えています。
そう考えるからこそ、自分の仕事を因数分解され、ナレッジを他の社員に共有されることに拒否感を覚えるかもしれません。
しかし、「任せられる人がその人しかいない」といった状況は、特定の社員の長時間労働や休暇が取得しにくい状況を発生させます。また、企業にとっても安定化、効率化など、実は長期的にみた場合のリスクにつながります。そのリスクをしっかりと伝えて、できる社員のスキル共有、標準化に納得してもらいましょう。
業務の標準化は、できる社員にもメリットがあります。ナレッジの共有により他の社員の能力が向上すれば、できる社員はさらに高付加価値の業務に注力することができるからです。
向上心の高い社員の説得には、業務の標準化によってもたらされるメリットも伝えると効果的でしょう。
標準化可能な業務の見極めはどうする?
できる社員の業務を因数分解したら、標準化できる業務を抽出しましょう。標準化できるか否かの見極めは、「可視化できるかどうか」を基準にすると簡単です。つまり、マニュアル(文書化)やフローチャート(図形化)として作成できるものを抽出するのです。
可視化したナレッジを共有し、社員による相互フォローが可能な体制を築けば、チームや組織での活動も行いやすくなります。また、休暇取得時の業務フォローアップも可能となり、休暇の取得促進も期待できます。
□属人的な業務の放置は組織運営上のリスクにつながる
□業務の標準化で「できる社員」はより高付加価値の業務に注力可能
□標準化が可能な業務の見極めの基準は「可視化」
□業務の標準化はチームや組織での活動も行いやすくする
あらゆる業務をチーム制で行う
業務をチーム制にすることは、従来の個人単位の業務遂行ではなく、複数のメンバーで構成されるチームを基本単位として業務を行う体制を指します。
チームメンバー間で役割分担や相互補完を行いながら、一つのミッションや目標に向けて協力して取り組むことで、より高い成果を上げることを目指します。
チーム内での知識・スキルの共有や、メンバー間のコミュニケーションを密にすることにより、個人では対応が困難な複雑な課題にも対処できるようになります。また、メンバーの多様な視点を活かすことで創造性の高い発想も生まれやすくなり、業務の質や生産性を大きく向上させることができます。
業務の大小に関わらず、組織的に仕事を進める体制を整備しよう
業務を一人の社員が担当する仕組みでは、その社員の不在時に業務が停滞するといったリスクがあります。その社員は休暇も取りづらくなるなど、働き方改革の視点からも大きな問題を招きます。
そのため業務の大小に関わらず、組織的に仕事を進める体制を整備しましょう。
主担当と副担当を事前に協議しておく
たとえば、営業における顧客対応を主担当、副担当(名称はA担当、B担当でも構いません)など、複数の人員で担当するようにします。そして主担当が不在の場合は、副担当が指揮をとります。
ここでの注意点は、「主」「副」という肩書に流されて、それぞれの役割を固定してしまわないようにすることです。
主担当しか指揮をとれないという状況になれば、チーム制を導入する意味がありません。そのため、主担当、副担当のどちらかが不在となった場合、どのようにチーム運営を行うかなどをあらかじめ協議しておきましょう。
担当 | 役割 |
---|---|
主担当 | 特定の業務やプロジェクトにおいて最終的な責任を持つ。 リーダーシップを発揮し、方針を決定する。 チームメンバーの役割分担や進捗管理を行う。 |
副担当 | 主担当者のサポート役として、特定の業務やプロジェクトに協力する。 主担当者の指示に従い、業務を遂行し、必要に応じてサポートを提供する。 主担当者の決定を補完し、業務の効率性を向上させる。 |
注目されている担当制度
役職とは異なる主担当制とは、従来の組織内の階層的な役職に基づく管理体制ではなく、各個人が特定の業務やプロジェクトにおいて主担当となる仕組みを指します。この制度では、個々のメンバーが自身の専門性や能力に応じて、特定の業務やプロジェクトに責任を持ち、リーダーシップを発揮します。役職に囚われることなく、個々のスキルや貢献度が評価され、必要に応じてプロジェクトや業務の主担当者が柔軟に選出されます。この制度は、チームの効率性や創造性を高め、組織内での自律性と責任感を促進します。主担当制は、従来の階層的な管理体制に比べて柔軟性が高く、個々のメンバーの能力やモチベーションを最大限に活用することができるため、現代のアジャイルな組織運営に適した制度として注目されています。
チーム制導入時にやってしまいがちなミス
チーム制の導入で起きがちなミスが、メンバーを固定してしまうことです。
たしかに、相互理解が進んでいるチームは高い連携能力を発揮します。しかし一方で、チーム単位で仕事が属人化する危険を招きます。
例えば、同一の部署内でA、B、Cの3チームを立ち上げ、メンバーを固定して活動するとします。いつも同じメンバーと活動するわけですから、そのうちチームごとで仕事の進め方に違いができてきます。つまり、同一の部署内に3通りの仕事の進め方が生まれるのです。
その結果、生じるのは1人の欠員による大混乱です。他のチームからベテラン社員を補充しても、仕事の進め方がまったく違うわけですから、慣れるまでに時間がかかります。その間、そのチームの生産性は著しく低下するでしょう。
チームのメンバーは流動的に組み替える
属人的ならぬ属組織的な仕事の進め方を解消するには、チームのメンバーを流動的に組み替えましょう。顧客もしくは案件ごとに主担当を設定したら、副担当以下のメンバーは重ならないように割り振ります。
この方法は人材育成にも効果を発揮します。複数の上司のもとで働いたり、さまざまな業務を経験することで、多能工型の人材が育つのです。複数の業務を遂行できる人材が増えれば、相互にフォローし合える社内環境づくりの構築も容易になります。
□個人ではなく組織で仕事を進める体制をつくる
□主担当、副担当で役割を固定しないように注意
□メンバー固定のチーム制は、チーム単位で仕事が属人化する危険あり
□副担当以下のメンバーは重ならないように割り振る
□チームメンバーの流動的な組み換えは多能工型の人材を育てる
助け合いの精神を社内に根づかせる
長い付き合いの顧客が業務の標準化を阻害する?
担当者と顧客の関係が長期にわたっているケースでは、そもそも別の社員がフォローに入る余地がないことが多くあります。担当者が築いた関係にヒビを入れてしまわないかという不安もつきまといますし、そもそもその担当者しか持ち得ない情報もあるからです。
しかし、繰り返しになりますが、属人的な仕事の進め方は企業にとってのリスクになります。
部署や会社全体で効率的に業務を進める体制づくりのために、一人の担当者による情報の抱え込みを解消するようにしましょう。
もっとも導入しやすく、効果的な手法は「作業日報」
担当者による情報の抱え込みの解消に、もっとも導入しやすく、かつ効果的な手法が作業日報(業務日誌)です。全社で作業日報を作成し、顧客の情報を部内で共有するルールを運用しましょう。
ここで重要なのは、管理職以外の社員にも、他の社員の作業日報をチェックする習慣を根づかせることです。もちろん、さらっと目を通すぐらいで構いません。他の社員が今、何をしているのか、どんな課題に直面しているのかなどの状況を把握できればOKです。そうすることで助け合いの精神が芽生え、他の社員の業務をフォローし合える組織風土ができあがります。
日報作成はデジタルで行うべし
日報をデジタル化すべき理由は大きく2つです。
ひとつ目は、情報共有がしやすいことです。紙ベースの日報よりデジタルのほうが共有しやすいのは、もはや説明不要でしょう。
ふたつ目の理由は、作業場所を選ばないことです。直帰する営業担当者や在宅ワーカーなど、社内にいない社員でも日報を作成してもらえます。これにより、「日報を作成するためだけに帰社する」という事態を防げます。
日報作成の効率を高めたいなら、フォーマットや作成ルールを整備しましょう。その日の業務内容を文章化するのは、なかなか骨の折れる作業です。それでなくとも日報作成は優先順位が低くなりがちな業務なので、なるべく負担を少なくする工夫が求められます。
社員による情報の抱え込みを解消する
全社で作業日報を作成し、共有するルールをつくる
管理職以外の社員も、他の社員の日報に目を通す習慣をつくる
情報共有、作業負担の軽減の観点から、日報はデジタルで作成する
おわりに
できる社員のノウハウを基準にして業務の標準化を推進すると、自己の存在意義が揺らぐ社員が出てくる可能性があります。「誰がやっても同じ仕事ができるなら、自分がやる必要がないのでは?」と思ってしまうのです。
業務の標準化を進める際は各社員に対して、会社にとってどのような重要な役割を果たしているか(期待しているか)ということを、しっかり伝えるようにしましょう。