コンセプトを考えるコンセプター
近年、Androidをはじめとするオープンアーキテクチャー(設計や仕様の全貌または一部を公開すること)によって、商品のスペックに大きな差が見られなくなってきている。代替品との明確な差別化を図ることができないため、中身だけで勝負に出るのはもはや厳しい。
人々は商品の購入自体を目的として消費行動を起こしているのではない。自身の課題解決を念頭に置き、自身の価値観や評価指標に合致するモノやサービスを選択しているのだ。
存在する商品に付加価値を与えるのではなく、核となるコンセプトを設計図として商品を生み出す。モノをつくる手法が移ろいゆく中で注目されるのがコンセプターの存在だ。
商品の脚本を書くコンセプター
そもそもコンセプトとは、創造された作品や商品の全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点を指す。様々な分野の垣根を超えてコンセプトを創出し、新たなモノやサービスを発明するのがコンセプターである。
はじめてコンセプターを名乗った坂井直樹氏は世界の自動車業界に衝撃を与えた。市場が四角い車ばかりだった時代に、丸いフォルムの車を提案したのだ。
坂井氏はカーデザイナーではなかった。コンセプター(当時はこのように名乗っていなかったが)だからこそ、自由な発想を発揮することができたのだろう。
そして、コンセプターの仕事はコンセプトを設定することにとどまらない。商品開発に携わるすべての人間をモチベートし、商品のデザインを考案し、消費者の購買意欲を掻き立てるプロモーション戦略を練る……。構想段階から消費者の手に届くまでの脚本を書く役割を担っている。
「想像」が「創造」に帰結する
一般的に、コンセプターには企画力やマーケティング力が必要とされている。先ほど「文字通り商品を生み育てる仕事」と表したが、彼ら彼女らはプロデューサーでも、デザイナーでも、プロモーターでもない。
コンセプターに求められるのは、アイデアマップを描きつづけられる力である。例えば、自動販売機で飲み物を買うという経験をするとしよう。そこから「ボタンの形」「飲料容器の形状」「取り出し口の高さ」などの一つひとつの何気ない要素を捉え、新たな着想に結びつけられる力が必要なのだ。
私たちの毎日は大小問わず様々な物事によって形作られているが、コンセプターは日常のすべてにアンテナを張り巡らせなければならない。
知識や経験、日常生活のすべてから能動的に気づきをつくる作業は、既存のモノやサービスが網羅していない潜在的な顧客ニーズを見出すことにつながっている。
多彩な手段を繰り出すよりも、いかに課題の本質を見極められるかが重要となっている現代社会。物事に根底からアプローチするコンセプターは、ビジネスという枠を超えて注目すべき存在だ。