飲食業に関わらず、すべてのビジネスの本質は、「お客の満足感を追求すること」です。利用者が満足すれば、リピーターになるばかりか、口コミとなって世間に広がり、新たなお客を呼び込むこともできます。提供できる満足感は大きければ大きいほど、より強い推進力となり、ビジネスを後押ししてくれます。
しかし、目に見えない「お客の満足」を、どのように追求すればよいのでしょうか? 「料理の質を上げたり、価格を下げたりしても、お客が来てくれない」と悩む経営者も多いと思います。
そこで役立つのが、今回紹介する「QSC」という指標です。思ったようにお客からの評価を得られていない経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
飲食業のQSCとは
QSCは、「Quality:品質(商品)」、「Service:サービス」、「Cleanliness:クレンリネス」を意味します。それぞれについて解説していきましょう。
Quality:料理はお客が納得できるレベルにあるか
料理やドリンクのことです。具体的には以下のようなものがあります。
- 美味しさ
- 素材や調理方法のオリジナル性、希少性
- 盛り付けの美しさや個性
- メニュー構成、ドリンクの品揃え
- 食器のセンス、グラスのセンス
- 適温での提供
この他に、ヘルシー感あるいはボリューム感といった、その店やメニューの方向性なども含まれます。
Service:サービスはお客が満足できるレベルにあるか
主に接客のことです。基本的には、オーダーの取り方や料理を運ぶ際の所作、適度な会話などのコミュニケーションなどがあります。また、おもてなしの心による配慮や、お客への感謝の気持ちも含まれます。次の料理を持っていくタイミングなど、マニュアル化しにくいものが多いため、スタッフ全体の教育や経験が必要です。
Cleanliness:クレンリネスはお客が安心できるレベルであるか
クレンリネスとは原則的には清掃のことです。お客の健康を損なわないために清潔を保つことは、飲食店として必要最低限だといえます。清潔感のあるお店なら、お客は安心して食事を楽しめます。このことから、クレンリネスは「お客の居心地の良さ」とも解釈できます。快適さを感じさせる内装や演出など、食事をするのにふさわしい雰囲気であるかも評価するポイントです。
● QSCは、「Quality:品質(商品)」、「Service:サービス」、「Cleanliness:クレンリネス」
● Quality:品質(商品)は料理の美味しさや希少性、盛り付け、品揃えなど
● Service:サービスはオーダーの取り方やコミュニケーションなど、接客のこと
● Cleanliness:クレンリネスは「お客の居心地の良さ」。清潔性に加え、内装や演出も含まれる
なぜ飲食店ビジネスにQSCが必要なのか
コンビニやスーパーで食べ物や飲み物が販売されるようになってから、飲食店は単に料理を提供する場ではなくなりました。飽食の時代、お客は外食ならではの「付加価値」を求めて飲食店を利用します。また、食材や調理器具、調理法が改良されるにつれて、「美味しい料理」というもののが当たり前になりました。「美味しさ」は、飲食店としての最低条件であると言えるほどです。料理がいくら美味しくても、スタッフの対応がそっけなかったり、フロアにゴミが落ちていたら、お客はその店を評価してくれません。外食に慣れた人が多い現代では、なおさらQSCの向上が求められるのです。
● お客は外食ならではの付加価値を求めて飲食店を利用する
● 外食に慣れた人が増えた現在は、なおさらQSCの向上が求められる
QSCはバランスがとれてはじめて機能する
QSCは個別評価ではなく、総体で評価するようにしましょう。というのも、QSCはどれか一つが欠けていても機能しないからです。
QSCの3つのうち、何か1つでも強みがあればいいと考える経営者もいます。しかし、それでいいのでしょうか。スマホですぐに情報が得られる時代です。お客は「何かおかしい」「変だ?」と思うとすぐに検索します。お客の審美眼は、ミシュランの調査員並みに厳しいと考えて臨むくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
特に近年はグルメサイトの口コミで下調べしてからお店に行く人が増えています。つまり、「今回は思いがけずアタリの店だったよ」と、お店や料理との出会いを楽しむお客よりも、下調べ通り以上の質を期待して訪れるお客が増えているのです。そのようなお客は、細かい目でお店をチェックします。だから、何かひとつの長所より、他のふたつの短所に目がいってしまうのです。このような理由からも、QSCのどれかひとつにこだわるのではなく、全体的な質の向上を目指すようにしましょう。
● お客は下調べ通りか、それ以上の質を期待してお店に訪れる
● そのため、長所より短所に目がいきがちになる
● だからQSCは3つのバランスが整って、はじめてお客に満足を提供できる
お客が満足を感じる尺度を知ろう
続いてQSCを基準として、お客が飲食店に持つ満足度の尺度について解説します。
「お客様はわがままだ」と思っている飲食店の経営者は多いのではないでしょうか。そして同時に、「そのわがままにお応えして、喜んでいただくことが飲食業のやりがいだ」とも感じているでしょう。お客から高い評価を得て、愛されるお店をつくることが、すべての飲食経営者の夢だと思います。
お客に満足してもらうには、どういう価値を提供されると満たされるのかという尺度を知っておくと便利です。今回はその尺度について紹介します。
QSCから考える、お客の満足感の尺度
お客は飲食店に訪れると、さまざまな場面で、さまざまな角度からお店を眺め、満足したり、不満を抱いたりします。QSC(商品・サービス・雰囲気)の3つから代表的なものを見ていきましょう。
商品:Qualityから見た満足感の尺度
商品における最も代表的な尺度は、「美味しさ」なのは間違いありません。
「この程度の美味しさなら、わざわざここに来る必要はない」
このようにお客が感じてしまうと、すべての努力が水の泡になります。
ただ、美味しさをクリアできたとしても、「ボリューム」「盛り付け・食器」などの尺度が現れます。例えば同じ商品でも、人によって次のような感想を持つでしょう。
お客A「味は満足。でももっと食べたかった…」
お客B「味もボリュームも満足。でも食器がインスタ映えしない…」
お客C「味もボリュームも、食器も満足」
食事に量や見栄えを求めるのかは、年齢や性別などお客のパーソナリティによって異なります。ここでお客の満足を考えるならば、男性向けにメニューを大盛り化するなどターゲットの絞り込みを行うか、料理の量をこまめに注文できるようにして、幅広い人が楽しめるようにするなどの方法が考えられます。
● 商品における絶対的な尺度は「美味しさ」
● 「美味しさ」をクリアすると、「ボリューム」「盛り付け・食器」などの尺度が現れる
● 量や見た目に関する尺度は、お客のパーソナリティで変化する
サービス:Service、雰囲気:Cleanlinessから見た満足感の尺度
サービスから見た満足感の尺度も、個人差があります。
お客A「スタッフは礼儀正しい。でも冷たく感じる…」
お客B「距離が近すぎなくてちょうどいい。でも水がなくなっても気付いてくれなかった」
お客C「水はすぐ替えてくれたけれど、態度が雑だった」
雰囲気から見た満足度の尺度も同様です。
お客A「内装は素晴らしいが、清潔感に欠けた」
お客B「清潔感は十分だが、内装は派手に感じた」
お客C「内装も清潔感も特に気にしなかった」
サービスや雰囲気による満足度の尺度は、商品よりもさらに個人的な価値観に基づくケースが多くあります。そのため、抜本的に解決するのは困難と考えられます。これほど好き勝手な感想を持たれると、経営する側として何から手を打てばいいのかわからなくなりますしね。
ただし、「サービスに親しみを感じられない」という感想が多ければ、スタッフの接客教育に力を入れる。「清潔感が足りない」という感想が多ければ清掃の回数を増やす。といったように、ひとつずつ見ていけば改善策を打ちやすいともいえます。
● サービスや雰囲気に関する尺度は、個人的な価値観によるものが多い
● そのため、抜本的に解決するのは困難といえる
● 一方で、問題をひとつずつ見ていけば、改善のための施策を打ちやすい
お客のわがままは、愛される店づくりのチャンス
実は、サービスや雰囲気という「空気感」で判断されるものは、例えば水がなくなったことに気付いてもらえなかったとか、お釣りを片手で渡されたとか、ほんのちょっとしたことですぐに否定的な評価に傾きがちです。つまり、そのちょっとしたことを直せば、高評価へと転じる可能性も決して少なくないのです。
だから、「わがままなお客の言うことだから」と聞き流さず、その印象を持った原因を探りましょう。愛されるお店へと成長するきっかけが見つかるかもしれません。
● サービスや雰囲気など「空気感」で判断されるものは、ほんのちょっとのことで否定的な評価をされる
● 同時に、ほんのちょっとのことで肯定的な評価もされる
●お客の感想から、その「ほんのちょっと」が何かを探り、改善に活かす
まとめ
SNSで手軽に意見を表明できるようになった現在、お店に関する情報の発信は評論家やメディアの編集者だけではなくなりました。その厳しい(あるいはわがままな)お客を満足させることが、これからの飲食店ビジネスでは重要になります。そのためにもQSCのバランスをしっかり考えてみましょう。それが、リピーター獲得にもつながります。
お客のニーズは人によって異なり、時代によっても変化します。言い換えると、満足感の尺度は一定ではないということです。「インスタ映えするか、しないか」という尺度も、ほんの10年前には存在しませんでした。
つまり大切なのは、お客からどのように見られているか、どのように感じられているか、ということを常に意識し、改善していくことです。その継続が、愛される店づくりの近道なのです。