仕事の時間や役割を柔軟化
師弟制度に代表されるように、日本の働き方は長年「縦割り」が主流でした。例えば、営業部署で1課と2課が営業成績を争うことで情報共有やノウハウ共有が進まなかったり、派閥の形成で適材適所が阻害されたり・・・。しかし、そのような縦割りの働き方は効率的とはいえません。
そこで本記事では柔軟な制度や働き方の仕組みづくりを導入することにより、企業にどのようなメリットをもたらすのかを紹介します。
縦割りの組織とは
日本の縦割り組織は、企業や組織が業務内容に基づいて厳格な部門分割を行い、各部門が特定の専門性を発展させる組織形態を指します。
この組織文化では、上司と部下の階層構造が厳格で、上層部の指示に従うことが重要視され、ジョウイゲタツ(上意下達)の要素が存在します。
一度決めたことは変更が難しく、融通がききにくいとされ、終身雇用制度や部門間での専門化が奨励されます。しかし、この縦割り組織は、部門間のコミュニケーションが希薄になりがちで、セクショナリズムや柔軟性不足を引き起こすこともあります。
縦割りの業務とは
割りの業務とは、組織内で業務や責任を部門ごとに細分化し、各部門が特定の専門的な業務を担当する組織構造を指します。この組織形態では、各部門が特定の業務領域に特化し、その分野における専門知識やスキルを発展させることが重要視されます。
例えば、営業部門、生産部門、研究開発部門、人事部門、財務部門など、各部門は自身の業務に専念し、その分野における最適なプロセスや戦略を追求します。
縦割りの業務構造は、特定の業務を効率的に遂行するためには有効である一方、部門間の連携や情報共有が課題となることがあります。
メリット1 部署をまたいだ交流が活性化する
繁忙期を共に乗り越え、団結力を高める
A部署とB部署で繁忙期がずれている会社の場合は、部署を横断して活動を積極的に行える体制をつくりましょう。
同一の部署内では、日頃から応援体制を構築できている企業は多いと思います。しかし、繁忙期になると部署全体のキャパシティが一杯になるため、その応援体制は機能しません。そこで、部署をまたいだ応援体制を構築。皆で苦労を分け合うことで社内全体の活性化が期待できます。
人材育成や職場環境の視点から事前準備を行う
部署をまたいだ応援体制を構築する際は、それぞれの部署における専門性を踏まえたうえで行います。また、各社員の多能工化という人材育成面での準備や、業務の標準化や作業工程のマニュアル化、フローチャート化という環境面での整備も事前に行います。
それらの事前準備には時間も労力も要します。しかし、そこを乗り越えて部署間が相互に応援できる体制が整えば、所定外労働や休日出勤の削減に効果が期待できます。
- 部署をまたいだ応援体制の構築は、部署ごとの特性を踏まえて行う
- 各社員の多能工化、業務の標準化などの事前準備を行う
メリット2 社員の労働時間を適切に把握できる
労働時間の不十分な把握は法律違反を招く
労働基準法で、使用者は労働時間の適切な管理が義務づけられています。しかし、職種、専門性などによって働き方が異なる部署や人にも一律で同じ労働時間制度を設けていることはないでしょうか。また、労働者の自己申告による労働時間の把握で、割増賃金の未払いや長時間労働などの問題が生じていることはないでしょうか。
その対策として効果的なのが、事業場外みなし労働時間制度・裁量労働時間制度などの柔軟な労働時間制度の活用です。
営業職には事業場外みなし労働時間制度を適用
特に労働時間を把握しにくいのは、営業職など事業所外で活動することの多い社員です。使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務に従事している社員に対しては、事業場外みなし労働時間制度の適用(事業場内での労働が一定時間ある場合には、その時間を除いて算出)により、ある程度見込みの時間で労使協定を締結して、運用する方法が考えられます。
- 使用者は労働時間の適切な管理が法律で義務づけられている
- 事業場外みなし労働時間制度・裁量労働時間制度の活用が考えられる
- 営業職など外回りの多い職種には、事業場外みなし労働時間制度の適用が有効
メリット3 ワーク・ライフ・バランスが進む
年次有給休暇取得が進められる
部署による繁忙期の違いで影響を受けるのが休暇の取得です。人材不足から休日出勤が増えると休暇取得のコントロールが難しくなります。また、仕事にあまりにも緩急の影響が大きいとストレスなど、社員の健康面への弊害も考えられます。
組織運営により、人材の配置に柔軟性を持つと、こうした問題を減少させることが可能になります。また、縦割りの組織を見直し、組織を横断した休暇取得の調整は、計画的な年次有給休暇の取得にも反映されます。
多店舗展開する飲食店チェーンでは、店舗間の応援体制が取られていることが少なくありません。こうした制度設計を参考に部署間での繁忙期を調整するのもひとつの方法です。
メリット4 業務の進行がスムーズになる
属人的な管理システムは業務の進行を滞らせる原因になる
このメリットは、特定の社員に裁量を与えている企業に当てはまるケースです。
担当者ごとに取り扱う品目が決まっている、システムの使用に担当者のコードが必要である、といった職場では、その担当者の不在時は業務が進まないということがよくあります。
これは業務の進行に影響を及ぼすだけでなく、その担当者が長時間労働せざるを得ない状況を招く原因にもなります。
担当者の代理者が管理や業務の処理を行える体制を整える
属人的な管理システムの対策として、チームや部門横断の柔軟な裁量制度の導入が考えられます。担当者の代理者が管理や業務の処理を行える体制を整えるのです。特定の担当者にかかっていた業務を分担することで、長時間労働のかたよりが改善されます。
短・中期的視野で専門的教育を実施する
金銭管理や顧客情報の管理など、一定の管理能力が求められるものの場合は、代理者の候補となる人材に短・中期的視野で専門的教育を行いましょう。また、代理者として新たな役職を設けて、モチベーションを向上させることもよいでしょう。
- 属人的な管理システムは業務の進行に影響を及ぼし、その担当者に長時間労働を強いることにもなる
- 属人的な管理システムには、代理者を立てることで対策する
メリット5 管理職の生産性を向上できる
日本の管理職はプレイングマネージャー
管理職の主な役割は、マネジメント業務です。ただ、日本では多くの場合、プレイヤーとしての役割も求められます。マネジメントも行いながら自身も前線に立つとなると、体がいくつあっても足りません。
ワーク・ライフ・バランスの取りづらいところがネックとなり、女性管理職の数が少ないという意見もあります。しかし、管理職にプレイングマネージャーとしての役割を求め続けることの最大の弊害は、「生産性」にあります。
管理職(特に課長とマネージャー職)で業務の棚卸しを行うべし
管理職は本来、一般の社員よりも責任の大きい業務に当たるものです。しかし、日々の細やかな雑用などに追われていると、それら高付加価値業務に専念することができません。
そこで一度、管理職の業務の棚卸しをしてみましょう。特に対象としたいのが課長職とマネージャー職です。個々の日々の業務内容を洗い出し、必要な業務か不要な業務かの選別。不要な業務を廃止(または部下に割り振り)することで、業務負荷の軽減を図ります。
女性の活躍がアドバンテージに
有能ながらワーク・ライフ・バランスの問題で昇進を敬遠する女性は少なくありません。課長やマネージャーという役職でワーク・ライフ・バランスを取れるようにすれば、そのような女性の活躍の幅が広がり、自社にとって大きなアドバンテージになるでしょう。
上長からの課長職・マネージャーの支援も忘れずに
働き方改革をはじめとした制度改革は、プレイングマネージャーの側面を持つ課長職ではなく、その上位職である者が責任を持つことが望まれます。課長の顧客に対する折衝に上長が立ち会うなど、無理な働き方の防止や、計画的な業務遂行が可能となるよう、課長職を支援しましょう。また、長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスについての項目を盛り込むことも有効です。
- 管理職は、高付加価値業務に専念する
- 上司、部下の職域を明確に分ける
- 人事評価項目にワーク・ライフ・バランスの項目を盛り込む
おわりに
楽しみワークス編集部としては、最後に挙げた「管理職の生産性の向上」を特に注目しています。管理職には優秀かつ責任感の強い人材が揃います。そのスキルを最大限に発揮できる環境を整えて、自社の成長につなげましょう。
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